長大附属中のカリキュラム

研究者として,その日見たことはその日に書かねばなるまい(現実は違うかも)。今日はうちの附属中学校の公開研究会に行ってきた。現在,文科省の研究開発学校となっている。情けないことに,学部教員にも関わらず予備知識がほとんどなかった。「脳科学研究の成果を生かした学習ステージの開発」をしているらしい。研究開発学校は既存の時間数を変えてよいことになっているが,教科学習の時間数は一緒であった。変わっているのは,選択と総合の部分である(つまり中3なら235時間分)。
各学年35時間ずつある「BEST」は毎日,朝8時40分から,昼は12時50分からの5分間取り組まれている。ここでは簡単な計算,あるいは音読を行う。小学校での「はげみ学習」(公文式のようなステップバイステップはなさそうだけど),最近の陰山メソッドのようなものだ。スラスラやっている生徒を目の当たりにした。これをやるのは反対ではないが,これが中心になったら困るなあと思ってみていた。そして,困ったことにはなっていないことを実感した。「BEST」の後に「自己探求」というのがなされていたから。
「自己探求」のねらいは「生徒ひとりひとりの可能性を引き出す,多様な探究活動を設定することにより,様々な面から自己を見つめ,理解し,理想とする自己の実現に向けて意欲的に歩み続ける生徒を育成する」というものだ。ここでは5つの探究活動が組み合わされている。

  • 学問探求(専門的な講座の受講)
  • 教科探求(必修教科の補助の役割)
  • 社会探求(人類や社会の問題を課題設定する問題解決型の学習)
  • 表現探求(様々な表現活動をとおして,自己理解を深める)
  • 地域探求(地域の姿を探求する)

以上は総合と分化,生徒主体と教師主導のオーソドックスな2軸に整理され,それぞれ位置づけられている(水越先生,村川先生的?)。この5つの探究活動が3年の間に組み合わされつつ実施されている。
本日見たのは,このうちの表現探求と学問探求であった。
前者ではいわゆる「コミュニケーション能力の育成」のようなことが行われていた。前時に各個人がアピール(発表会)を行ったようで,本時はその後の振り返り活動であった。相互評価でよかった生徒の発表を視聴し,その良さがどこから来ているかを検討した。面白かったのは,それだけではなく,その後に教師がそういう視点を盛り込んだ発表を見せたことだ。ところがこの発表は基準はすべて満たしているものの,内容的に生徒の賛同を得られないものであった(生徒の進路は親と相談して決めるというような感じ)。そこで,なぜ賛同が得られないのかを考えさせている。それには「対話」をすることでその隙間を埋めていくことの必要性が取り上げられていた。いずれも非常に面白いものであった。
後者の講座はかなり多くのものが開講されていた。私が一部見たものを列挙。多くの講座でうちの学部の先生を中心にゲストティーチャーが登用されていた。

  • 英語とドイツ語の比較。これは僕が京都外大にいるとき「マルチリンガル教育」としてなされてきたものだ。しかも,資料を見ると語源についての講義もやったようだ。
  • 音楽の科学。大小さまざまなリコーダーを用いながら,2分の1だとか3分の1というように大きさを比較し,それによって音階がどのような違いがあるのかを考えさせていた。こうした活動を通して各理論を理解させようとしていた。
  • 遠隔授業を実現させるネットワークの仕組み。パケットがネットワークをどういう具合に流れていくか,それにはどのような技術が必要か。実際に紙の受け渡しを行いながら,理解しやすい講義を行っていた。

もちろん,その前には教科の公開もあった。主に見たのは技術と社会の授業。

  • 技術は情報モラルについて。玉田先生@東京経営短大らが開発された「3種の知識」を用いて情報に関わる諸問題を考えていくことの有効性を手を変え品をかえ,理解させるような授業。
  • 社会は5枚の第2次大戦あたりの写真資料から様々な情報を読み取って,時代の順番の並びかえを行うことで,時期を考えさせた。生徒の知識では時期を特定しにくい写真を選択し,様々な疑問を抱かせようとした導入の授業であった。本単元が終了したときに,情報が読み取れそうな写真であったのかどうかなどは先生に聞いてみたい気もした。

以上のようになかなか面白い授業が展開されていた。あえて批判的に見れば,

  • 「自己探求」のカリキュラムが複雑すぎる。よくわからないが「教科探求」には異質のもの(得意不得意から見て)が混ざっていそうだが,そのあたりの選択性はどうなのか。もう少しじっくりやったほうがよいような探究活動もありそうだが(たとえば地域探求は各学年15時間程度),そのあたりはどうなのか。
  • 現在のカリキュラム(選択と総合)との違いはどこにあるのか。つまり研究としての新規性ということになる。今の枠組みでも位置づけることは十分可能ではないか。
  • 各探求学習が教科も含めてどのように連携しているか

以上のような感想を持ったが,さすがカリキュラム開発に歴史ある学校だと思った。将来は学部教員として何か貢献できることがあればよいと思ったが・・・。